「中国で商品を作りたい。まずアリババを見て、展示会にも行ってみました」。相談に来られる企業様から、よくこの話を聞きます。そして多くの場合、こう続きます。「でも、うちに合いそうな工場が見つからないんです」。
見つからないのは、探し方が悪いからではありません。探している工場が、そもそもそこにいないからです。
日本向けに強い工場は、表に出てこない
日本市場を長くやってきた工場は、広州交易会のような大きな展示会に出てきません。ウェブサイトを持っていない工場も珍しくありませんし、持っていても取引先は載せません。どこの日本企業の商品を作っているかを、外に出さないからです。
理由は単純で、出る必要がないからです。既存の顧客との仕事で手一杯で、新規を広く集める動機がない。そして何より、長く付き合っている日本の取引先を大切にしていて、その関係を表に出すことを良しとしない。裏方に徹している工場ほど日本向けの経験が深い、という逆転がここでは起きています。
ではどうやって仕事を得ているのか。口コミと、現地での横の繋がりです。工場どうし、あるいは長く現場にいる人間の紹介で回っている。この輪の外側からは、存在そのものが見えません。
日本人が一人もいない現場で、五年間
私自身は2006年から2011年まで、周りに日本人が一人もいない環境でものづくりをしていました。日本向けの商品と欧米向けの商品を、同じ工場で同時に走らせる日々です。
あの五年で身についたのは、技術の知識よりも、日本向けの仕事が工場側からどう見えているかという視点でした。これは日本にいて図面と見積書をやり取りしているだけでは、まず分かりません。
日本の多品種小ロットは、世界でも特殊
日本の品質管理は、世界の中で明らかに異質です。
たとえば不良率の考え方。私が現場で見てきた限り、欧米向けや中国国内向けでは、不良率が5パーセントなら5パーセント多めに作ればいい、という発想が主流です。数さえ合えば商売は成立する、という考え方です。
日本は違います。なぜその不良が出たのか、原因は何か、再発を防ぐには何を変えるのか。そこを詰めます。不良率をどこまでゼロに近づけられるかを問われます。
しかも、要求が厳しい割にロットは小さい。年間の販売予定数量も、はっきりとは示されないことが多い。工場の立場から見れば、手間がかかるのに数量が読めない市場です。正直に言えば、通常は旨味を感じにくい。まずこの現実を直視しないと、話は前に進みません。
この15年で、日本向けの位置づけは変わった
昔からそうだったわけではありません。15年ほど前までは、日本向けの商品を作っていること自体が工場の看板になり、優先度が上がる場面がありました。欧米の顧客に対しても「あの工場は日本の仕事をしている」という安心材料として働いた。だから多少割に合わなくても、日本向けを一定量やっておく意味があったのです。
その後、中国国内の内需が伸び、欧米市場も旺盛になりました。相対的に、日本向けは手間のかかる厄介な案件だと感じる工場が増えていきます。
そしてコロナ禍。ここで大きく分かれました。品質管理とサプライチェーンをしっかり作ってきた会社が生き残り、そうでない工場は消えていきました。
コロナが明けてからは、トランプ政権下での通商環境の変化と、中国経済の停滞が重なります。その中で、ODMの力を持つ工場ほど規模を大きくし、技術力も着実に上げてきました。設計から提案できる工場は、もはや下請けではありません。
結果として、いま起きていること
二つのことが同時に起きています。
一つは、小ロットで日本市場に対応できる工場が、展示会にもネット上にも出てこないこと。もともと表に出ないうえに、数そのものが減りました。
もう一つは、ODMで力をつけた工場ほど、日本企業がいきなり問い合わせても相手にされにくくなったことです。向こうには選ぶ余裕があります。ロットが小さく、要求が細かく、数量も読めない相手を、初対面で引き受ける理由がない。
つまり、良い工場が見つからないのではなく、構造として見つけられない状態になっている。ここを理解しないまま探し続けても、時間だけが過ぎていきます。
では、どうやって辿り着くのか
紹介と、過去の取引の積み重ねしかありません。
私たちの場合、共同代表の陳と私が長く付き合ってきた工場が、まず話を聞いてくれます。断られることもありますが、少なくとも門前払いにはなりません。あの二人が持ってくる案件なら一度見てみよう、という関係が時間をかけて出来ています。
これは技術でもお金でも買えないものです。現地に居続けた年月と、そこで揉めずに納めてきた実績の蓄積でしかない。私たちが中国のものづくりに関わりはじめて、30年になります。その間に作ってきた関係が、いちばんの資産だと思っています。
まとめ
中国で商品を作ろうとするとき、本当に探すべきものは工場そのものではなく、その工場に辿り着ける経路です。
アリババや展示会は、入口として悪くありません。ただ、日本市場の細かい要求に小ロットで応えられる工場に、そこから辿り着くのは現実的に難しい。そこは割り切って、経路を持っている相手に聞いた方が早いというのが、私たちの正直な見解です。
作りたい商品の構想が固まっていれば、どの地域の、どういう性格の工場に当たるべきか、お話を伺った段階である程度はお伝えできます。

